「脳」が見る世界

本屋さんで平積みになっていた写真集がフト目に留まったので立ち読み、本城直季氏の作品であった。初めて氏の写真を見たのは電車の吊り広告、流れるプールにたくさんの人が遊んでいる風景だった。車内でしげしげ眺め『えらい作りこみのミニチュアだなぁ』と感心しきり。2度目は会社で回覧されていた建築系雑誌、建築写真の写真家を取材した記事。でその吊り広告も作品のひとつに掲載されていて、『へ、ミニチュアじゃないんだ』と。
んで、本屋さんで三度目の遭遇。インターネットで検索してみると、プロ写真家の登竜門「木村伊兵衛写真賞」受賞者らしい、へぇ。ちなみに写真家の登竜門としては「太陽賞」もあった、廃刊でなくなっちゃったみたいだけど。
で、そのミニチュアみたいに見える写真の仕掛け。検索結果では被写界深度(ピントが合っている距離範囲)の薄さに秘密がある、という言及がほとんどだけど、どうだろうか。ワシは「遠近の縮小」が重要な要素だと思うのね。遠近感って、遠くのものが小さく見えることで写真だとレンズの焦点距離が遠近のパースペクティブを決める。35mm幅フィルムのカメラだったら焦点距離50mmくらいの画角のレンズが目で見た感じに近い遠近感で描画されるらしい。で、より広角レンズだと「遠くのモノがより小さく」、逆に望遠レンズだと「遠くのモノもあんまり小さくならずに」描画されてフィルムって平面に記録される。実像を見たときの遠近情報は失われ、カメラとレンズで決まっちゃった遠近感を印画紙とかディスプレイの上で眺めるわけだ。でも、実は脳がイメージを捉える仕組みはいい加減というか複雑というか、「オレの知識ではカクあるべき」補正を施している。たとえば超高層ビル、似た遠近感を再現するハズの50mmのレンズで地上から見上げて写真に撮ると、ずいぶん先細りに見えるハズ。実物を見る時には脳内で高いところの大きさを修正しているのだ。で、写真にその修正を再現するときに使われるのが、蛇腹のレンズを使ったアオリってテクニック、件の本城氏もこれを使っている、見上げじゃなく見下げで。被写界深度はむしろ副産物で、見下げたアングルでアオリを効かすと画面の上の方(遠くの景色)は望遠寄りに、下の方(近い景色)は広角寄りになる、この遠近の縮小が「ミニチュアみたいに見える」作品を生んでいる。と、考えたんだが、色の濃淡補正とかいろいろ他にも秘密があるらしい。
人間の目にどのくらい小さく見えるかは眼球のサイズと関係がある。浜崎アユとかは眼球がデカイらしいので角膜(レンズ)の同じならフツーの人より広角よりの遠近感でモノを見てる。遠くのものがより小さく見えるんだろう、一番近い自分自身が一番大きく見えるから何十億も稼げる自信が生まれるんだな、とワシの脳に見えている(トラックバックに迎合してみた)。